市民公開講座ご質問の回答について
市民公開講座『放射線被ばくを考える』
平成23年11月3日、札幌サンプラザにおいて開催しました市民公開講座『放射線被ばくを考える』では、100名を超える市民と会員の皆様にご参加いただきました。おかげさまで盛況に終えることができました。誠にありがとうございました。今回の市民公開講座のアンケートでは市民の方々から多くの質問をお寄せいただきましたが、福島第一原発事故以来、放射線や被ばくに対する不安が市民のあいだに広がっていることを実感しました。すべての質問にはお答えできなかったのですが、お答えできることについて、以下に掲載させていただきます。
- 50年程前、米ソによる原水爆実験が行われていた頃と現在の自然界の放射線物質の差がどの位か知りたい。又、今回の原発事故の危険性は、当時の世界環境を凌ぐものなのか?
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- 放射線物質が風で運ばれるとのこと。具体的に知りたい。海の中では?空気中では?
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- 今回、ストロンチウムも検出されたとの事、どのような影響があるのか?
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- 内部被ばくに関して食物から蓄積される量とその安全について知りたい。
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- 汚染(被ばく)は、大人と子供とは、大きな差はあるのか?又何故か?
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- 内部被ばくにおいて筋肉、骨、細胞への影響、体外に出すための有効な方法は?耐久性を作るための食品は(果物?加工品?)
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- 上ノ国のブラックシリカが温泉で多量湯の中に入っております。又自分でも温泉の説明で水道水に入れると良いといわれまして日々水道水に入れ飲んでおります。お話お聞きし体内被ばくに悪い結果とならないでしょうか?
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- 電磁波との違い。半減期の意味するところは?
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- 胃がん手術後の経過観察でCT検査を受けていましたが、今回は、血液検査(腫瘍マーカー)のみとしてもらいました。今後も血液検査で問題なければCTは省略してもいいでしょうか?ちなみに手術は、6年前スキルス性胃がんによる全摘出術(再手術)ステージ4の進行ガンで再手術の時腹膜の転移があったので5年経過後も観察としたものです。
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- 医療被ばくにおいて胸のX線を始め、限度回数も知りたい。X線検査とX線治療の関係
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- 院内での放射線に関する研修会を行う場合にどのような内容を行えば良いか?技師会で参考となる資料等をお願いしたいと思います。
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- その他にも多くのご意見、ご質問をいただきました(こちら)。
- 質問50年程前、米ソによる原水爆実験が行われていた頃と現在の自然界の放射線物質の差がどの位か知りたい。又、今回の原発事故の危険性は、当時の世界環境を凌ぐものなのか?
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- お答え下のグラフより、核実験フォールアウト(降下物)やチェルノブイリ原発事故においても日本における137-Csのフォールアウトは103Bq/m2を超えることはありません。
一方、今回の福島事故において文部科学省発表データでは、福島県飯舘村の137-Csは106Bq/m2を超えています。つまり、福島県内では核実験時代に日本に降った量の1000倍以上が降っているということになります。
福島県以外の左図の茶色の部分でも、核実験時代の10倍になります。福島原発事故前の日本では、核実験時代の1/1000まで減少していました。
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文部科学省発表データ |
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- 質問放射線物質が風で運ばれるとのこと。具体的に知りたい。海の中では?空気中では?
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- お答え放射性物質とは、原子のことなので、空気中に放出されると原子単体でも浮遊しますが、多くの場合爆発時のいろいろな埃や塵と一緒に運ばれるケースが多いです。そのとき、空気中では風の流れによって運ばれ、くっついている埃や塵の大きさ、重さによって地上に落ちていきます。塵や埃とはくっつかず、原子単体で浮遊しているものは、比較的遠方まで風や気流に乗って到達し、山などの地形や低気圧などの気象条件によって、地上に落ちてきます。
海の中では、海流に乗って運ばれますが、遠方へ行けば行くほど拡散され、濃度は低くなっていきます。Csやヨウ素などは水溶性ですので、海水中によく溶け込みます。今回の福島の事故では、3月12日~20日ころにかけて大量に環境中に放射性物質が放出されました。その後は大きな爆発などもなく、環境中に放出されていないようです。(私自身も3月、8月の福島市、原発敷地内の土を分析して確かめました。)したがって、今は文部科学省が発表しているように、3月のときに放出された比較的長い半減期のセシウムが地面などに堆積しています。この堆積したセシウムなどは、あとは雨などによって流されたり、その場に堆積し続けます。堆積したものが再び風などで運ばれることは少ない(大きな竜巻などが起これば別ですが…)と考えられます。
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- 質問今回、ストロンチウムも検出されたとの事、どのような影響があるのか?
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- お答えストロンチウム(Sr)で問題となるのは、89-Srや90-Srです。これらも放射性物質です。
Srは元素としては、Ca(カルシウム)と同族であり、同じ化学的性質を持つため、体内に取り込まれると体内でCaと同じような動き方をします。つまり、体内では骨に集積します。
体内の大腿骨など大きな骨の骨髄では血液を作っているため、大量のSrが骨に集積すると、造血障害などが懸念されます。今までにSrによって造血障害がおこった例として、文献等で確認できるのは、旧ソ連時代1942年~1952年頃におきたテチア川事故です。
旧ソ連の軍関係者により軍用核廃棄物が大量にテチア川に放棄されました。川の周辺には30以上の村落があり、住民はその川の水を生活用水として利用していました。また、1957年のマーシャル群島事故における、第五福竜丸の船員たちも一過性の造血障害が認められています。
国立保健医療科学院によると、地上におけるSrの量は、Csの量10に対してSrの量1、つまり10:1として計算しています。
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- 質問内部被ばくに関して食物から蓄積される量とその安全について知りたい。
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- お答え食物を通して放射性物質を体内に摂取した場合、その放射性物質の種類によって体内のいろいろな部分に集積します。(前出の回答参照)体外排出は、放射性物質の種類や個人の代謝速度によって違いますが、体外排出の遅い物質は薬品などによって強制的に排出しなければ、蓄積することになります。これらを踏まえて、ICRP(国際放射線防護委員会)は事故時における食料からの公衆被ばくの限度を1年間あたり10mSvと定めています。
日本においては、これのさらに半分、1年間あたり5mSvとなるように設定しています。それに基づいて決められたのが、放射性セシウムの場合食品で1kgあたり500ベクレルという暫定基準値です。しかし、これも基準値としては高すぎるという世論を受け、来年4月には1年間あたり1mSvとなるように設定し直す作業がされているようです。これらの基準値を守っていれば、食品に関しては問題のない安全な数値ということができます。
内部被ばくは、放射性物質の種類によって集積する場所が違うので、その限度量の算定も非常に難しい計算によってなされています。それらも含めて、ICRPでは平時の一般公衆の被ばく限度を1mSv/年としています。(これは事故がなくても、食品には自然の放射性物質が含まれているからです。)福島の事故が起きた現在では、国、自治体、農協などの団体が行っている測定によって、流通が定められています。
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- 質問汚染(被ばく)は、大人と子供とは、大きな差はあるのか?又何故か?
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- お答え汚染ではなく、被ばくの影響に差があります。放射線感受性というものがあります。細胞分裂が盛んであるところは放射線感受性が高くなります。
したがって成長を続けている子どもは、大人と比較して当然、放射線感受性が高くなります。つまり大人より子どもの方が、被ばくしたときの影響が大人よりでやすいということになります。
特に外部被ばくおよび放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺癌リスクは、乳幼児>小児>青壮年とリスクが低下し、40歳以上の成人では殆ど甲状腺癌リスクが消えます。
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- 質問内部被ばくにおいて筋肉、骨、細胞への影響、体外に出すための有効な方法は?耐久性を作るための食品は(果物?加工品?)
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- お答え内部被ばくは、放射性物質を呼吸や飲食などを通じて、体内に取り込んでしまうことで起こります。体内での挙動は放射性物質の種類によって違います。セシウム(Cs)は元素として、カリウム(K)と同族のため、筋肉に均等に分布します。この場合問題となる被ばくは生殖腺への被ばくとなります。ストロンチウム(Sr)は、カルシウム(Ca)と同族のため、骨に集積します。
この場合問題となる被ばくは赤色骨髄への被ばくであり、造血障害などが問題となります。ヨウ素(I)は甲状腺に集積するため、甲状腺がんが問題となります。これらの放射性物質が代謝や排泄により、体外へと出ていくためにかかる日数は物質の種類や個人の代謝速度によって異なります。これらの放射性物質を大量に体内へ取り込んだ場合は、体外排出を促進するためのキレート剤などの内部汚染除去剤を用いる方法があります。
しかし、一般の病院などには常備されていないものが多いので、放射線医学総合研究所にお問い合わせ願います。内部被ばくに関して、耐久性を作るもしくは防護するための食品について、いろいろな情報が飛び交っていますが、国際機関で正式に発表されたものはありません。ただし、放射性ヨウ素に対する安定ヨウ素剤は世界共通認識です。安定ヨウ素剤を投与することで甲状腺被ばくを防護します。
しかし、数回にもわたる過剰な投与は逆に甲状腺機能亢進症などの病気を引き起こす恐れがあります。国や自治体によって決められたマニュアルなどにしたがって服用しなければなりません。安定ヨウ素は海草類に多く含まれているため、それらを多く摂取する日本人は普段から甲状腺に安定ヨウ素が多い状態になっています。あえてそのような食品を多く摂取する必要はありません。
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- 質問上ノ国のブラックシリカが温泉で多量湯の中に入っております。又自分でも温泉の説明で水道水に入れると良いといわれまして日々水道水に入れ飲んでおります。お話お聞きし体内被ばくに悪い結果とならないでしょうか?
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- お答えたしかにブラックシリカからは、極微量の放射線が出ています。しかしそれは身体に問題となるような量ではなく、むしろブラックシリカから出てくる遠赤外線によって、より良い岩盤浴が行えます。
上ノ国のブラックシリカは良質なことで知られており、岩盤浴、温泉のほかに浄水作用として飲料水にも入れられています。多種の天然ミネラルをふんだんに含み、マイナスイオンなどによりおいしい水ができると聞いています。極微量の放射線は出していますが、水自体は汚染するわけではないので、安心しておいしいお水を飲んでください。体内被ばくはありません。
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- お答え放射線は電磁波の一種です。下図のようになっています。半減期とは、放射性物質固有のもので、放射線を出す力(放射能)が半分になるまでの時間のこといいます。一般的に半減期というと、物理学的半減期のことをいいます。
たとえば、131-Iの半減期は8日です。8日経過すると、放射線を出す力は半分になってしまいます。16日経過すると1/4、24日経過すると1/8となり、時間の経過とともに、放射線量も減衰していきます。ちなみに、137-Csの半減期は30年であり、なかなか放射線量は減衰しません。

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- 質問胃がん手術後の経過観察でCT検査を受けていましたが、今回は、血液検査(腫瘍マーカー)のみとしてもらいました。今後も血液検査で問題なければCTは省略してもいいでしょうか?
ちなみに手術は、6年前スキルス性胃がんによる全摘出術(再手術)ステージ4の進行ガンで再手術の時腹膜の転移があったので5年経過後も観察としたものです。
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- お答え国際放射線防護委員会(ICRP)は医療被ばくに関して、線量限度を設けていません。それは、医療放射線を規制することによって、それを利用して診断される患者にとって不利益が生じるからです。
医療におけるCT検査の必要性は、あくまでも主治医の判断であり、その実施については主治医と患者であるあなたとの間で説明・合意(インフォームドコンセント)に基づいて行われるものです。確かに、CT検査はX線被ばくをもたらしますが、検査によって被ばく以上の利益が見込めます。がんの術後経過はやはり転移が一番気になるところなので、腫瘍マーカーだけでなく、いろいろな検査の複合結果によって確認することが求められます。よく主治医とご相談ください。
なお、定期的なCT検査であっても、1ヶ月単位の間隔であれば細胞レベルでの受けた被ばくの影響は、回復しています。
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- 質問医療被ばくにおいて胸のX線を始め、限度回数も知りたい。X線検査とX線治療の関係
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- お答え医療被ばくにおいては、胸部X線写真などに回数限度などはありません。これは国際放射線防護委員会(ICRP)で勧告されています。ICRPの勧告の中では、医療被ばくに制限を設けることは、患者にとっての不利益に繋がることとして、他の人工放射線源を使用する場合と区別して線量限度は設定していません。
ただし、最近の医学の進歩における多岐にわたる医療用放射線の利用に関して、患者に放射線障害が起きないようにするため、診断参考レベルという考え方を導入しています。この考え方によって、IAEA(国際原子力機関)は医療被ばく低減のため、ガイダンスレベルを設定しました。日本においても、日本放射線技師会が医療被ばく低減目標値を定め、医療被ばく低減のため努力しています。
放射線治療はおもに、がんの治療に用いられることが一般的に知られています。この放射線治療に使うX線と診断用のX線の違いはX線のエネルギーです。診断用に用いられるX線のエネルギーは高くても140keVで、治療用に用いられるX線のエネルギーは10MeV(=10,000keV)です。つまり、治療用は診断用の約100倍のエネルギーのX線を利用します。
エネルギーが高くなると、X線はより深いところまで到達することができるため、身体の中にあるがん細胞に届き、がん細胞にダメージを与えることができます。このとき、がん細胞以外の正常細胞にもX線のダメージは与えられますが、治療においては分割照射という方法を用いることで、正常細胞が回復するのを待ち、がん細胞にのみダメージを蓄積していき治療効果を得ます。
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- 質問院内での放射線に関する研修会を行う場合にどのような内容を行えば良いか?技師会で参考となる資料等をお願いしたいと思います。
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- お答え院内での研修会の場合、参加対象者の職種によっても変わってきます。参加者に看護師さんもいる場合などは、比較的基本的なところから始めなければならないと思います。ちなみに、わたしが参考としている本は
- 「医療のための放射線防護」真興交易医書出版部
- 「放射線防護マニュアル」草間朋子 日本医事新報社
- 「あなたと患者のための放射線防護Q&A」草間朋子 医療科学社
- ICRP Publ.60 1990年勧告
- ICRP Publ.73 医学における放射線の防護と安全
- ICRP Publ.84 妊娠と医療放射線
- ICRP Publ.85 IVRにおける放射線傷害の回避
- ICRP Publ.87 CTにおける患者線量の管理
- ICRP Publ.93 デジタルラジオロジーにおける患者線量の管理
- ICRP Publ.102 Managing Patient Dose in Multi-Detector Computed Tomography(日本語訳なし)
- ICRP Publ.103 2007年勧告
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- 他にも多くのご意見やご質問をお寄せいただきました。
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- 今回の講座大変有意義であった。武田先生の話にありました数学的な資料ありがたかったです。
非常にわかりやすいデータでした。
- 今後ともこの種のイベントの企画をお願いしたいと思っています。
- 福島の子供の3年後とか5年後の被ばく状況、人体影響は、公表してほしい。
- 一般の説明の仕方で理解できない部分を解りやすく周知していくには、技師としての今後の役割が重要になってくるのではないか?
- コバルトが、建築資材に混ぜたことがお話されていましたが、発ガン率が低かったことは良かった点ですが、難点として何かあれば教えて下さい。
- CT線量が蓄積されない事が、わかり安心しました。色々な情報をありがとうございました。
- 原発についてどう考えるのか議論をさけたのは少しさみしい気がします。人間が管理できない。
- 原子力発電からは、撤退すべきだと考えます。
- とても非常に大事だと大切さを知りました。家庭のテレビのニュースで見ているよりは、現地にきて講座を聞くと自分も万が一そのようになった時は、大切さや思いやりが感じました。
- 講演依頼の際は、宜しくお願いします。
- 安心しました。子供たちにも教えられます。
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Date:2012年2月4日
Category:Q&A
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